2月15日に公正取引委員会が公表した「人材と競争政策に関する検討会報告書」が話題になっています。この報告書について、フリーランスに独占禁止法を適用することによってフリーランスを保護することになると報道されています。
これらの報道では芸能人やスポーツ選手が例として取り上げられているので自分には関係のない話と思われるかもしれません。しかし、この報告書は企業と労働契約を結んでいないフリーランス全般を対象として検討したものですので、フリーランスとして働く人はもちろん、フリーランスに業務を依頼している企業側にも関係するものであり、多方面に影響を及ぼすことが予想されます。
近年、企業などに雇用されない形で働くフリーランスが増えており、その数は1000万人を超えているとも言われています。例えば、システムエンジニアやプログラマー、IT技術者の中には企業の社員とならずに、プロジェクト単位で仕事をする人がいます。また、記者や編集者、ライターといった出版業に携わる人やアニメーター、デザイナーといった業種でもフリーランスで働く人は少なくありません。
これらフリーランスの人々は、一般的には交渉力の大きな企業に対して交渉力の小さな個人が仕事を受けることになることから、フリーランスは無茶な要求を飲まざるを得なかったり、一方的に企業(発注者)に有利な条件で契約が締結されていたりしています。
締結する契約の内容は当事者が合意する限り自由であるとは言っても、それは当事者が対等な関係にあり、力関係が拮抗していることが前提です。企業に雇われている労働者も一般的にはフリーランス同様に力が弱いですが、力の弱い労働者を保護するために様々な労働法が制定され、労働者は労働法の保護を受けています。しかし、フリーランスは労働者ではないため、労働法による保護を受けることができません。そこで、フリーランス人材の獲得競争を保護するために独占禁止法が適用できないかについて検討した結果が今回の報告書の内容です。独占禁止法の目的が公正かつ自由な競争を保護することであるため、フリーランス人材の獲得競争を保護するという言い方になっていますが、独占禁止法が適用されることで弱い立場のフリーランスを保護することができるようになります。
この報告書では、フリーランス人材の獲得をめぐる競争にも独占禁止法が適用されるものとして、例えば以下のような行為が問題になり得ることを指摘しています。
【発注者の共同行為について】
発注者が共同して業務の価格を取り決めること
・発注者が共同してフリーランス人材が移籍をすることを制限すること
【発注者の単独行為について】
・他の発注者との取引を制限・禁止する条件を付ける場合に、発注者が実際とは異なる条件を提示したり、条件を明らかにせずに取引すること
・発注者が役務提供者(フリーランス)に対して不当に不利益な要請を行うこと
【競争政策上望ましくない行為】
・対象範囲が不明確な秘密保持義務や競業避止義務を負わせること
・価格等の取引条件を他の役務提供者(フリーランス)に開示しないよう求めること
・価格を明示せず、あいまいな形で提示すること
独占禁止法の保護は発注者である企業とフリーランスの関係が労働契約関係ではないことを前提としていますが、名目上は請負などとなっていても、その実態を見れば労働契約関係になっている事例も少なくありません。
実際に、契約を終了されたフリーランスが裁判を起こし、実際には請負契約ではなく労働契約であるので契約終了は解雇に該当し無効であると主張したり、残業代を求めたりといったことがあります。
企業がフリーランスとの間で「請負契約書」を結んでいたとしても、フリーランスは企業の指揮命令下にあり労務の対価を支払っていると判断されれば、その実態は請負契約ではなく労働契約であるものとして労働法の保護下にあることになります。そうすると、たとえ契約書に自由に解約できると書いてあってもフリーランスとの契約を解約することは解雇に当たることになり、自由に解約することはできなくなるなどのリスクが生じます。
フリーランスとの契約をチェックする際には契約書の文言だけではなく、実態が契約内容に合っているか、実際には労働契約になっていないかについてもよく検討することが必要でしょう。
さらに、労働契約に当たらない場合でも、今回の報告書における指摘を踏まえて、独占禁止法上の問題がないかについても検討する必要があります。
フリーランスの方だけでなく、フリーランスに業務を依頼している企業でも、これを機にフリーランスとの契約内容について検討してみてはいかがでしょうか。そうすることで、思わぬリスクを回避することができます。
なお、「人材と競争政策に関する検討会報告書」は、こちらからダウンロードすることができます。
(弁護士 大城章顕)