サッカーワールドカップのグループリーグも終盤に入り、日本代表の躍進もあってますます盛り上がりを見せています。
サッカーワールドカップと言えば世界最高峰のスーパープレーが見られる場ですが、一方で激しいプレーの中でケガを負ってしまう選手もいます。また、これまでのワールドカップでも相手選手に頭突きをしたり、噛みついたりした選手もいました。
サッカーに限らず多くのスポーツでは、様々なケガを負ってしまうことがありますが、相手選手にケガを負わされた場合、相手選手は損害賠償などの法的責任を負うのでしょうか。
サッカーの試合中に相手に噛みついてケガをさせた場合、噛みついた選手は治療費などの損害賠償責任を負うべきだという考えは納得しやすいと思います。他方で、ボクシングの試合中に殴られた選手がケガをした場合、殴った選手が治療費などの損害賠償責任を負うべきだという人はいないでしょう。では、サッカーでタックルをしたところ、足にかかって骨折したという事例の場合には、タックルをした選手は法的な責任を負うべきでしょうか。このような事例については、そのタックルをした状況次第で意見が分かれるかもしれません。
このようなとらえ方の違いは、どうして生まれるのでしょうか。何を基準として判断しているでしょうか。
一つ目の噛みつきの例は、サッカーで噛みつくことはそもそも想定されておらず、ルールの範囲外です。他方で、ボクシングで殴ることはボクシングというスポーツの本質でもあり、殴られてケガをすることはルールの範囲内で生じる危険と言えます。これらの例からすると、法的責任が生じるかについて、多くの人はそのスポーツのルールの範囲内かどうかで判断していると考えられます。
それでは、3つ目のサッカーのタックルでケガをした事例はどのように考えるべきでしょうか。単純にファウルであるという意味でルールの範囲外であるから法的責任が発生すると考えるべきなのでしょうか。それとも、タックルをすることはサッカーの通常のプレーであるから、法的責任は負わないと考えるべきなのでしょうか。
スポーツ事故の法的責任を考える場合に重要なことは、単純にルールの範囲内かということではなく、“過失があったか”ということです。ルールの範囲内であるかどうかは、この過失の有無の判断要素に過ぎません(とはいえ、非常に重要な判断要素です。)。近年のスポーツ事故に関する裁判所の判断も、単純にルールの範囲内かどうかで判断しているのではなく、過失があったかを具体的に検討しているものと思われます。
過失の有無の判断は簡単なことではありませんが、サッカーを例に取れば、ルールに従ったプレーであったか、通常想定されているプレーであったか、生じた危険が通常想定されていたものであったか(例えば、擦り傷程度はありうるものとして、選手は想定しているはずですが、骨折するようなタックルは想定されていないと言えるでしょう。)といった要素を考慮することになると考えられます。
このようにスポーツ事故の法的責任の有無は難しい問題を孕んでいますが、あまりに法的責任を強調しすぎると選手は萎縮してしまって思い切ったプレーをすることができなくなってしまいます。
スポーツ事故でも法的責任が発生することがあるということを知っておくことは必要ですが、そのためにスポーツを楽しめないのでは本末転倒です。スポーツを楽しむために、まずは安全対策を取り、加えてケガをしてしまった、させてしまった場合に備えてスポーツ保険に加入するといった対応を取ることで、スポーツを楽しめるようにすることも大切です。
(弁護士 大城章顕)