ハリルホジッチ前監督が怒っています。4月9日、サッカー日本代表の監督だったハリルホジッチ前監督が解任されたことは、サッカーファンならずともニュースでご覧になったことがあるのではないでしょうか。
解任の理由については日本サッカー協会の田嶋会長が会見やテレビ出演等で説明していましたが、ハリルホジッチ前監督には選手とのコミュニケーションに問題があったことを挙げていました。しかし、この会見で注目したのは、田嶋会長が解任をハリルホジッチ前監督に伝えるためにパリまで行った時の会話の内容です。
田嶋会長によると、解任を伝えるためにパリでハリルホジッチ前監督に会った際の様子について、「びっくりしたという印象でした。動揺もしていたし、怒りもありました。それは事実。『どうしてなんだ、なぜこのタイミングなんだ』と聞かれたのも事実です。ただ、あれがあったなどと羅列するつもりはなく、事実として伝えただけ。実際には総合的ないくつかがあるのは事実だが、しっかりと線を切ったことを伝えました。」とのことでした。
その後、4月27日には解任されたハリルホジッチ監督が来日し、会見を開きました。その会見を見ても、やはりハリルホジッチ監督が詳細な解任理由を田嶋会長から聞いたということはなかったようです。
この結果、報道によればハリルホジッチ前監督は名誉回復を求めてサッカー協会を提訴する意向があると言われています。
弁護士業務の中で主に会社側で労務を扱っていますが、このハリルホジッチ解任騒動を見て人に辞めてもらうことの大変さを改めて感じました。
人に辞めてもらうとき、あるいは辞めたあとにトラブルになった例を見ると、トラブルとなってしまうのは「なぜ自分が辞めなければならないのか」ということについて、本人が納得できないからではないかと感じています。
どのような理由であれ、人に辞めてもらわなければならないことになった場合には、その理由を本人にきちんと説明することが大切だと思います。もし勤めている会社から「会社を辞めて欲しい。理由ははっきり言えないが。」と言われた場合に、すぐに納得できるでしょうか。普通は「どうしてなんだ」と思いますし、理由を尋ねるでしょう。
だからこそ、人に辞めてもらいたいと考えている会社は、その人に対してなぜ辞めてもらいたいと考えているのか、その理由をきちんと説明すべきです。辞めてくれと言われた人が辞めることに満足することは難しくても、理由を伝えられることで本人の納得を得ることができるかもしれません。少なくとも、理由も伝えずに本人が納得することはまずあり得ません。
さらに、抽象的な理由(例:コミュニケーションに問題がある)だけではなく、できる限り具体的な事実とその時に取るべきだった対応を伝えることで本人の納得を得やすくなります。もちろん、この前提としては辞めてもらうという判断の前に、問題を改善してもらうための努力をすることが必要です。問題があると感じたのであれば、問題点を本人に伝えて、さらに改善方法まで伝えることが必要です。それにもかかわらず、問題を改善できないからこそ辞めてもらうという判断になるのです。
このようなプロセスを経ることで、人に辞めてもらわなければならない場合でも辞めることについて本人の納得を得ることができるようになります。そうして、トラブルになることを避けることができるのです。
普段の業務を通じてこのようなことを感じていましたので、田嶋会長の説明を聞くと、ハリルホジッチ前監督への説明方法に問題があったのではないかなと感じます。
いずれにしてもワールドカップが間もなく始まります。サッカーファンの皆さんはぜひ4年に1回のお祭りを楽しんでください。
(弁護士 大城章顕)