王子経営研究会では、企業で起こっている様々な問題の根本的な原因に、社員の「しらけ」があるのではないかと議論をしています。
今回は、その「しらけ」が企業不祥事を引き起こしているのではないかということについて考えてみたいと思います。
企業不祥事が止まりません。2018年ももうすぐ終わろうとしていますが、パッと思いつくだけでもいくつもの企業不祥事が思い出されるのではないでしょうか。今年に限った話ではありませんが、やはり印象に残っているのは、複数の製造業において製品のデータを改ざんしていたという不祥事です。
日本の製造業は高品質を誇っており、世界でもメイドインジャパン=高品質というイメージを持たれています。多くのデータ改ざん問題では、日本の製造業の高品質というイメージを揺るがすものだと、マスコミでもしばしば言われました。
では、長い時間をかけて獲得してきた高品質というイメージと真反対とも言えるデータ改ざんなどの企業不祥事は、どうして起こってしまったのでしょうか。
企業不祥事が起こると、多くの場合にその詳細と原因を突き止めるための調査が行われます。そして、その調査報告書では、不祥事が起こった原因として、企業のシステムの問題とともに、個々の担当者のコンプライアンス意識の低さや欠如が取り上げられます。
企業のシステムに問題があっても、個々の担当者のコンプライアンス意識が高ければ、そうそう不祥事は起こりません。なぜなら、不祥事はシステムが起こすものではなく、人が起こすものだからです(システムは不祥事を起こすのではなく、むしろ不祥事を起こさせないためのものと言うことができます。)。
担当者が不祥事を起こしてしまう原因、データ改ざんの例で言えば、基準に満たないデータの数値を変えて、基準を満たしたことにしてしまった原因はどこにあるのかを考えると、そこには社員の「しらけ」があるのではないかと思います。
コンプライアンス意識が高い状態というのは、単に法律やルールを知っている状態を指すのではありません。法律やルールの詳細を知らなくても、やっていいこと、やってはいけないことの判断がきちんとつく社員は、コンプライアンス意識が高い社員ということができます。もちろん、やっていいこと、やってはいけないことの判断基準が、客観的に見て、言い換えれば社会から見て正しいということが必要です。
今、製造業で品質に関する不祥事が起こっているのは、このやっていいこと、やってはいけないことの判断基準が社会とズレてしまっていることに原因があると考えられます。そして、このズレは、会社が「わが社は品質に自信がある」とか「高品質なものを世の中に出すことに意義がある」といったことについて、しらけてしまっていることから生じているのではないでしょうか。
コンプライアンス意識が低くなっている社員は、「いくら企業の理念やビジョンを語られても、結局数値目標を達成することが重要なんでしょ。」という考えになってしまっているのではないでしょうか。
経営者は、公の場では「美しい」理念を語るのに、内部的には理念を語らずに「数字」だけを語ってしまっていないでしょうか。そうだとすると、(不祥事を決して擁護するものではありませんが)その裏表を見ている社員がしらけてしまうのは、もはや必然とも言えるのではないでしょうか。
経営者は、今一度、企業の理念の意義を再考し、コンプライアンス意識の構築を行うべきではないでしょうか。そうすることで、企業不祥事を防ぐことができるのでないでしょうか。
研究会での議論を通じて、コンプライアンス意識についてこのようなことを考えています。この「しらけ」についてはどうすれば「しらけ」ないようにすることができるか、これからも引き続き検討していきたいと思います。
(弁護士 大城章顕)