中小企業庁の調査によれば、日本の全企業のうち、中小企業・小規模事業者はその99.7%を占めています。
そして、全企業の99.7%が中小企業・小規模事業者であることから、中小企業は働く場としても大きな役割を果たしています。実際に、日本の全従業者数のうち、70.1%もの人が中小企業で働いています。
このように、全従業員の70.1%もの人が働いている中小企業は、働く場として重要ですが、政府が進めようとしている「働き方改革」やニュースになる労働問題は、その多くが大企業を対象としています。しかし、実際には全体の70%以上もの人が働く中小企業の「働き方改革」を進めなければ、日本全体の「働き方改革」にはなりません。
働く場としての中小企業の特徴としては、以下の6点が挙げられます。
①お互いの顔が見える
②ゼネラリストになる
③個人の業績と会社の業績が直結している
④地域に密着している
⑤相対的な労働条件が悪い
⑥創業者育成機能がある
①お互いの顔が見える
中小企業は、その規模が小ささからお互いの顔と名前がわかるだけでなく、どんな仕事をしているかといったことに加えて、お互いにどんな人かを知っています。
このことは、社内のコミュニケーションに大きな影響を与えています。話がしやすくコミュニケーションが取りやすいというメリットの反面、直接知っているからこそ言いたいこと、言うべきことが言えない関係になることもあります。
②ゼネラリストになる
大企業では分業化、専門化が進んでおり、営業一筋、経理一筋といった社員も少なくありません。しかし、中小企業では、その規模の小ささのため、社員が複数の業務を担当せざるを得ないことも多く見られます。例えば、営業担当として取引先と交渉したりする社員が現場で製造も行うということも少なくありません。その最たる例が経営者です。中小企業の経営者は、営業、製造、税務、財務、法務などあらゆる業務に関わっています。
このように中小企業の社員は、特定分野のスペシャリストではなく、必然的にゼネラリストになります。
③個人の業績と会社の業績が直結している
会社の業績は社員の活動の結果ということができますので、大企業でも個人の業績と会社の業績は結びついていますが、規模が大きく、分業が進んでいるためにこの結びつきが見えづらくなっています。しかし、中小企業は規模が小さいことから、この結び付きが見えやすくなっています。
例えば、中小企業では個々の営業部員の成果の合計がそのまま会社の売上になっていることも多く、また工場の生産ラインのやり方次第で会社の生産性や競争力にそのまま影響することがあります。反対に、一人一人の社員の働きによって、会社の業績がマイナスにも影響します。このように個人の業績と会社の業績が直結しているということができます。
④地域に密着している
中小企業は生産拠点や事業所が一つしかないことも多く、複数の拠点がある場合でも営業範囲が大きくないことが大多数です。これは規模の小ささから必然とも言え、地域との結びつきが強くなりがちです。これに比べて、大企業では生産拠点が複数あり、営業範囲も日本全国、世界中など広範囲であることが多くみられます。
このような特徴から、中小企業は地域に密着しており、地域経済に大きな影響を与える存在になることがあります。
⑤相対的な労働条件が悪い
大企業と中小企業の賃金格差がしばしば話題になりますが、国税庁民間給与実態統計調査結果を見ると、最も規模の大きな大企業と最小規模の中小企業では平均年収に100万円以上の差が開いています。
その他にも、長時間労働や残業代の未払いなどの事例も中小企業では多く見られますし、福利厚生についても一般的には大企業の方が充実しています。
このように、大企業に比べて相対的に中小企業の労働条件は悪くなっているのが実態です。
⑥創業者育成機能がある
日本政策金融公庫の調査によれば、起業した人の多くは中小企業出身であり、起業者に占める割合は大企業出身者よりも多くなっています。
これは、中小企業ではゼネラリストとならざるを得ない反面、事業の全般に関与することができ、経営について学ぶ機会を得られると同時に、「自分でやってみたい」という気持ちが喚起されるためと考えられます。
このように、働く場として中小企業を見た場合、小規模であるがゆえの大企業とは異なる特徴がみられます。
中小企業で働く人が全体の7割以上を占めることを考えると、この中小企業での働き方を変えていかなければ日本全体の働き方改革は達成できません。
そして、規模が小さい中小企業だからこそ、会社の業績は社員に影響されやすく、会社の成長は社員にかかっていると言っても過言ではありません。中小企業の経営者の大事な責務は、社員が力を発揮できる組織や環境を整備していくことだと思います。
そのために、中小企業経営者は今一度、中小企業の強みと弱みを見直し、変革すべきところに優先順位を付けて取り組んでいくことが大切です。
なお、この記事は、渡辺幸男ら著『21世紀中小企業論(第3版)』(有斐閣)を参考にしています。中小企業論全般についてわかりやすく書かれた書籍ですので、中小企業論にご興味のある方はぜひご覧ください。
(弁護士 大城章顕)