「おまえはアホか?」・・・「お役にたてず申し訳ございません」
AIを搭載したグーグル先生には人間の脳の働きをまねて会話する能力があり、それゆえにとても親しみがあり、お茶目で間抜けなところもあり、愛すべき家電でした。
最初はダイニングテーブルのど真ん中にドドンと置かれていたのですが、一週間も経つと…
グーグル先生はバナナや豆苗よりも格下な存在に成り下がり、カウンターの隅に追いやられてしまいました。(上の写真の中の一番左の丸いヤツが、グーグル先生です)
家族も私もグーグル先生ができること/できないこと、そして応答パターンがだいたい分かってきて、そのワンパターンな応答に意外と早く飽きてしまったのです。
PC雑誌などを賑わす最新のAIスピーカーなるものがこの程度のもの(不躾な表現、ご容赦下さい)なのに、なぜ、多くの人や業界/政界がAIに大きな期待をするのでしょうか?
それは、今日のブーム(第3次AIブーム)の対象が、新しい「自己学習するAI」だからなのです。新しいAIは、人間が物事を教え込んでやる必要が無く、まるでHAL9000みたいに自身で知能の質と量を向上させていき、良否の判断基準まで自分で決めることができるようになるのだそうです。「これは正しいか・間違っているか」「これは良いか・悪いか」を自分で勉強して決断できるようになる…こんなAIが実現する可能性があるとは、本当にすごい話です。
ところが、このようなAI技術の可能性に便乗して…
IT業界では、『AIが万能であるかのように触れ込む「AI詐欺」とも言えるようなシステムの売り込み』が起きているのだそうです。
「AIには無限の可能性がある」とか「それは技術的には可能」だとか言って、さまざまなシステムを売り込もうとするそうなのです。
たとえば…
『機械学習にはビッグデータが必要だから製造設備にセンサを付けましょう…これがまさにIOTです』
『ビッグデータが収集できても格納する場所が無いと…そこでクラウドですよ』
『機械学習には数十万件のデータ分析処理が必要で、それにはスーパーコンピュータが必要です』
…といったふうな感じに煽るのでしょう。
しかし今日の時点で…現実的には、機械学習型のAIは「産業に適用できるほど技術が成熟しているわけではない」「機械学習を実現するには莫大なデータとコストが必要である」ため、製造業でも小売業でも、大企業でも中小企業様でも…おいそれと適用すれば経営的に良い結果を出してくれるシロモノだとは決して言えないと私は考えています。
機械学習型のAIは、主に「2006年に発明されたディープラーニングの技術」と「2010年頃から充実してきたビッグデータの収集蓄積環境の現実化」によって、『産業への適用可能性が期待できるとメディアが騒いているだけ』であって、現時点で確実に投資対効果が出るIT技術だとは誰も言っていません。
ここで、基本的な「機械学習」の大まかな仕組みを書きますと…
①大量の良質なデータ(数万件~)をAIに喰わせる
②その大量で良質なデータから「ほとんど統計的な手法で」判断に適したデータを選択する
③選んだデータで正しい判断が出来ているかどうか、人間が与えた区別基準(特徴量と言います)で評価する
④特徴量をクリアすればその統計的に選択したデータを知識として蓄積し、クリアできなければ捨てる
⑤特徴量を一番上回ったデータの組み合わせを最善な判断知識とする
…といった感じです。
さらに、この機械学習にディープラーニングの技術を適用すれば、③の区別基準すらコンピュータ自身が判断し、さらには、統計的に選択したデータの間違いをコンピュータ自らが訂正(Backpropagation)できるようになります。これにより、人間の助けがなくとも機械が自ら学習ができるようになります。(もちろん、この学習のために莫大なデータと強力なコンピュータが必要になります)
新しいAIは、このようにして、自ら設定した特徴量をクリアした「統計的計算結果」を自らの知識として蓄積していきます。
ですが…この知識は、それまでの大量のデータから多分に統計的に導き出されたものでしかありません。それゆえに…
本当にその知識が「理屈として納得がいくものかどうか」「新しいデータ(例えば新商品や新しい工場/ラインのデータ)でも、変わらず正しい答えを出せるのか」等、人間には吟味できないのです。
すこし技術論に触れましたが、なぜかと言いますと…経営者の皆様に以下の質問を投げかけてみたいからです。
【人間が介在せずコンピュータが自らの何十万のデータを元にはじき出した統計的計算結果に、本当に会社経営や工場運営を託して良いのでしょうか?】
『ハイ良いです、お願いします!』と断言できる経営者の方がどれ位いらっしゃるのでしょうか?
もしも、「製品歩留まりが改善しない」ことに長年悩んでいる経営者が…
機械学習型AIにその答えを期待して高価なシステムを導入し、現場に命令して詳細な勤務データや何万件もの製造実績データをクラウドに入力させ、それをスーパーコンピュータで何十時間も掛けて分析させた結果…
・『現場の作業標準化が出来ていない(確度80%)』
・『班長間で技術情報が共有されてない(確度73%)』
・『上長と部下のコミュニケーション不足(確度83%)』…
…こんな回答を得たとしたら、そのシステム投資は活かされたと言えるでしょうか?
…最新AI導入よりも、先にやるべきことがあるのではないでしょうか?
IT技術を生業にしている小生が申し上げることではないかも知れませんが…
経営層にいらっしゃる皆様は、決して軽々しくITバズワードに踊らされないようにお願いいたします。
そのためには、経営や現場の「課題とその本質」を知り、それらが「本当に最新IT技術で解決すべきものなのか/できるものなのかどうか」を見極める眼力を持ち続けて頂きたいと願ってやみません。
最後までお読み頂きありがとうございます、不躾&長文失礼いたしました。