こんにちは、廣島です。7月ももうすぐ終わり…早いですね。
さて…前回は、IT導入時にはWHY(なぜやるか)→WHAT(何をやるか)→HOW(どうやるか)の順番で考えることが大切だというお話をしました。IOTやAIなどの煌びやかなIT技術は実現手段(HOW)の話に過ぎません。それよりもまず、この会社の問題は何でそれをどうしたいのか…というWHY(なぜやるか)を明確することこそが大切です。
でも、実現のアクションにつながらないWHYは、単なる「絵に描いた餅」にしか過ぎません。
では、WHYをアクションにつなげるにはどうしたらよいのでしょうか?今回は、これまでITベンダの人間として、色々なお客様の業務変革プロジェクトに参画してきた経験から感じていることを書きたいと思います。
アクションを起こすのは現場である
経営は、会社全体の問題を把握して「この会社をどうしたい」という理想像を描くことができます。しかし、実際に会社を変えるアクションを起こすのは『現場』なのです。経営がいくら素晴らしい理想像を掲げても、現場がアクションを起こさない限り会社は変わりません。
しかし、例えば『わが社の競争力を一層強化する』などといった…経営が打ち出した理想は、現場の方々から見ればとても抽象的で分かりにくものです。現場の方々は、『で…私たちは具体的に何をすればいいんでしょうか?』と思うのが関の山でしょう。経営から与えられた抽象的な理想は『絵に描いた餅』になり、経営層は『現場に我々の思いが伝わらない』とか『笛吹けども踊らずだ』などという悩みを抱え、一方の現場は『経営がまた意味の分からないことを言っているな』と思うのではないでしょうか。
このように、経営と現場の間に距離(ミゾ)があったり…ひどい場合には不信感や対立がある状態では、経験上、会社の変革が上手く行くとは到底思えません。上手く行った変革プロジェクトでは、ほとんどの場合、社長もプロジェクトに参画して現場と議論を重ねてきたのを見てきたからです。
経営のWHYを現場のWHYに変え、現場のWHATを策定する
まずは、経営の描いた理想像の裏に(過去から積み上げてきた)どのような価値観や信念があるのか、(未来に向けて)どのような希望や心配があるのかをしっかり現場に伝えることが大切だと考えます。経営と現場が互いの言葉の上っ面だけをとらえるのではなく、その裏にある感情や思い(価値観・信念・希望・恐れ)まで共有できる対等な意見交換をすることで、経営のWHYに対する現場の共感度が深まり、その実現性がはるかに高まると考えてよいと思います。すなわち、経営が掲げたWHYで現場の心が動くかどうかが一つの大きなカギになると考えます。
さて、経営者は経営全般の問題事を心配しその理想像を掲げますが、現場の方々はその問題事や理想像が自分個人の日常業務や利害にどう影響するかを心配します。たとえ一つの経営的な問題でも、経営と現場では、その問題をとらえる設定(背景)が違うのです。
したがって、現場の方々が経営の問題や理想像を感情や思いのレベルで共有した上で、自分達の日常業務や利害をどうしたいかを考える必要があります。
すなわち、経営のWHYを現場のWHYに変換するステップが必要になると考えます。
経営の理想像の『わが社の競争力を一層強化する』を実現するために…現場がどうなっていたら良いかの理想像を自ら考え、それが実現するとしたらワクワクするかどうかを感じて、現場の理想像を決めていくのです。
例えば『わが社の競争力が一層強化する』ために現場で以下のようなことを実現させるとしたらワクワクしませんか?
・自分が扱っている部品の精度が他社の10倍になった
・お客様も喜んでくれて、別の部品の発注もしてくれた
・自社製品が定価でも飛ぶように売れ、欠品すら起きそうだ
・つまらない会議や伝票作成が減り、作業に専念できる時間が増えた
・空き時間が増えて、新しい技術の勉強を始めた
・残業も減り、製品原価が下がって一層儲かるようになった
・若手に仕事のコツを教える時間ができ、安心して定年を迎えられる
・残業が減ったおかげで家族と過ごす時間が増えた
10年後の姿でよいのです…10年もあれば実現できるかもしれません。感情が動くほどに実現したい理想像を明文化し、現場の仲間や経営と共有するのです。
そして、自分たちの視点でワクワクするような理想像を策定することができれば…次に、その理想像と現状のギャップを解決するために何をすべきかを考えます。それが、何をやるか(WHAT)を考えるということです。
例えばある部署で「残業が減ったおかげで家族と過ごす時間が増えた」という理想像が挙がったとすると、その理想像と現実のギャップを埋めるために『〇〇業務を変革して残業を□□時間減らす』と決めれは、それが何をやるか(WHAT)になります。
絵に描いた餅から実際のアクションへ
現場が経営が策定したWHYを自分事として捉え、その実現アクションを実際に起こすためには、以下のようなポイントがあると考えています。
・現場が、経営の理想(WHY)の裏にある感情や思いを聞き、共感したり心が動くのを感じる
・現場が、経営の理想を実現するために、自分たちの現場にどんな理想を実現させるかを考える
・現場が、自分たちの理想にワクワクし、そうなりたいと思う
これら3つのポイントはすべて、現場の皆さんの『内発的動機』を引き出すためのものです。
現場が経営の理想像(WHY)の裏にある思いや感情に共感し…『トップダウンのやらされ仕事』ではなく『自分事としてどうしても実現したい』と思う現場の理想像(WHY)を描くことができれば、その実現のために何をするか(WHAT)の検討も自発的に始まります。
そしてそれらのWHATを『やればできる可能性があること』だと現場が論理的に納得できれば、それらは実行され、もはや『絵に描いた餅』にはならないと考えています。
つまり会社の変革には、現場から…
「感情レベルの共感・納得感」、「自分事として実現したいという内発的な動機」、「論理レベルの納得感」
の3つを引き出せるリーダーが必要だと考えています。AIやIOTなどの最新IT技術に詳しいだけのエンジニアが、企業変革をリードできるとは決して思えません。
変革リーダーは、高いコミュニケーションスキルと傾聴~共感力を持った人物でなくてはならないのです。