広島カープが3年連続リーグ優勝を果たしました。広島では、四年前に続いて今年も辛い土砂災害が起きてしまいとても暗い雰囲気でしたが、この優勝で私たち広島市民はとても力づけられました…カープの監督&選手の皆さんには本当にありがとうと言いたいです。
しかし、万年Cクラスのダメ球団だったカープが、どんな変革プロセスでここまで強くなったのでしょうか?
監督・コーチ陣と選手たちの間でどのようなコミュニケーションが交わされ、現実に選手のプレーが変わって行ったのでしょうか?
「スポーツチームの変革プロセス」について私はまったく無知ですので何も書くことはできないのですが、製造業の業務変革プロセスについては、これまでの回で何度か書かせて頂いた「WHY(なぜやるか)→WHAT(何をやるか)→HOW(どうやるか)」の順番で検討していくことが成功の秘訣だと考えています。
しかし、いくら経営陣が素晴らしい業務変革プロセスを検討したところで、現場の方々が現実に変革を起こさなければ、その検討は「絵に描いた餅」でしかありません。ここまでが前回までの原稿に書かせて頂いた内容です。
業務変革の検討結果を「絵に描いた餅」で終わらせず実現化させていくためには、現場の皆さんの行動を変えるためのコミュニケーションが必要になります。
しかしながら、「コミュニケーションで御他人様の行動を変える」というのはとても難しいことではないでしょうか。そもそも「自分の親兄弟や家族とすら上手くコミュニケーションできないことさえある」のに…「コミュニケーションで、別の家庭で生まれ育った御他人様の行動を変えてやろう」など、私にはとてもおこがましい事なのではないか…とすら思います。
そこで私は、「自分が御他人様の行動を変えていく」のではなくて「その人が自身の意思で自らの考え方を変え、その結果、行動が変わっていくように働きかける」という考え方でコミュニケーションをさせて頂こうと考えています。
そのために大切だと思うのは、「相手の方の納得度/腹落ち度」を出来うる限り高めた上で、相手の方が自ら「言われたからやるのではなく、自分でそうしたいからやる」という気持ちになって頂くようにお手伝いをすることだと考えています。
よって「私はこう考えている、だからあれやってください、こうしてください」といった『指示』のような言い回しは徹底的に避け、常に相手の方から「私はこう思う…だからあれやりたい、こうしたい」と言って頂けるようにリードするよう心がけをしています。
しかしながら、業務変革のお仕事は「こう思う、あれもこれもやりたい」と夢を語り合うだけで終わり…いうわけには行かず、請け負わせて頂いた以上は「決められた期間とコスト」の中で結果を出さなければいけませんので、変革の実現化までつながるステップを確実にを踏んで進めて行く必要があります。
「納得度/腹落ち度」を高めて頂くために、まずは、業務変革のゴールについて「筋の通った分かり易い説明をする」ことがとても大切になります。(誰だって、納得のできないゴールや、目指したいと思えないゴールに対して「心の底から、実現に協力しよう」とは思わないでしょう)
そして、ゴールにしっかりと納得を頂いた上で「この進め方はゴールの実現につながるやり方だ」ということを理解して頂くことが必要です。
目指すゴールとその実現までの進め方について現場の方々に納得して頂くためには、業務変革プロセス検討の順番と同じく「WHY→WHAT→HOW」の3ステップでコミュニケーションを進めていくことが重要です。
■変革を進めるための3つのコミュニケーションステップ
1)WHY:現状とゴールを共有する
・今、会社(組織)がどんな現状なのか、事実を伝える
・このままだとどうなるのか、事実を伝える
・これらの事実に対してどう感じているかを伝え、気持ちを聞かせて頂く
・本当はどうなりたいと思うかを伝え、気持ちを聞かせて頂く
・事実やお互いの思いを踏まえ、会社(組織)としてどうなりたいのか、共通のゴール挙げて行く
2)WHAT:共通ゴール実現のためにやるべき課題を共有する
・ゴールと現状の間にどんなギャップがあるかを聞かせて頂く
・それぞれのギャップが生まれてしまった事情を聴かせて頂く
・これらのギャップを無くすことが、我々の課題であることを合意頂く
・どのギャップから取り組むか議論し決めて頂く
3)HOW:共通課題の解決手段を共有する
・現場の工夫だけで解決できる課題があれば挙げて頂く
・組織変更など、経営の協力が必要な課題を挙げて頂く
・設備やシステム導入など投資や社外の力が必要な課題を挙げて頂く
上記3つのステップのタイトルは、すべて「~を共有する」としました。これは、「変革を検討/推進する立場の方々」と「実際に変革を実施する現場の方々」の間のコミュニケーション上で「意見が合わないこと」を「両者の対立」と捉えて欲しくないからです。
互いが「両者の意見が合わないこと」を「対立」と捉えてしまうと、変革の実現は進まなくなると考えています。打合せの場での言動や文書などに表れてくる「意見」は、その意見の根底にある「価値観」「道徳観」「体験や信念」などのより深い感情的レベルの思想から生まれてきている「現象」として表出しているものです。「意見が違う」とからいって、表面上の現象である意見の食い違いだけに着目して「対立」状態が起きていると考え、その根本要因となっている思いの共有が出来なくなってしまうことは、会社や組織の全体最適や変革を追求する取組みの致命的なブレーキになってしまいます。
ですので、「互いに違う持場で」「違う立場で違う責任を負って」「違う価値観や道徳観をもって」仕事をしている人達が集まって会社や組織全体の変革を進めるためには、現象として表出してきた相手の言動だけでなく、その裏にある深いレベルの思想まで共有することが大切だと考えています。
しかしながら、日頃、会社で職場の皆さんや他部署の方・上司や役員の方々と「深いレベルの思想」までぶつけ合って話をすることなど滅多に無いのではないでしょうか?
「こんなことを言うと生意気だと思われる」「上司の前で本音を言って否定されるのが怖い」「どうせ言っても分かってもらえない」「どうせ部長の鶴の一声でしょ」「経営と現場の間には分かり合えない壁がある」「営業は現場の事を分かっていない」…社内の方々だけのコミュニケーションの場には、さまざまな恐れや諦めがあります。
しかし誰だって本来は、「誰かの役に立ちたい、頼りになりたい」とか「自分の気持ちや意見を聞いて欲しい、共感して欲しい」という気持ちが心の底にあると思いますし、一部には仕事の大義が薄い方は居るかもしれませんが…そもそも「私は、職場の同僚や上司・お客様を困らせるために仕事をしている」という人なんか殆ど居ないでしょう。
会社や組織レベルの大きなゴールを実現するためには、「個々が利害を主張する」レベルから「みんなで同じゴールに取り組む」というレベルへの転換が必要になります。そのためには「二項対立の構図」を崩して「同じゴールを追求するチームの構図」を作り上げるための「安全な議論ができる場づくり力」や「共感~自己開示を引出す会話力」、「行動を引出す動機付けの力」などのコミュニケーションスキルがとても大切になってくると考えますし、だからこそ、昨今の「質問力」や「ファシリテーション」などのコミュニケーション系スキルのちょっとしたブームが起き始めているのだと感じています。
ビッグデータやAI技術の進歩に伴い、これから一層、多様で変化の早い時代になっていくでしょう。会社や組織レベルの意思決定~戦略実行/変革実現に対する迅速化がますます求められてきます。たった一人で決断~実行できることもその実現スピードも、限られたものです。チームで思いやゴールを共有し、互いに上手く補完協力して素早く実現していかなくてなりません。よって、コミュニケーション能力はより一層、重要になっていくであろうと確信しています