こんにちは、廣島です。GW後半に入りましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
前回は、「AIを人知を超えた万能な問題解決の手段」だと捉え「AIを導入すれば長年の課題も解決できてしまうだろう」と、安易にAIシステムの導入指示を下すのは危険ではないか…というお話をしました。AIやIOTなどの流行りものから問題解決の手段選びをする前に、まずはじっくりと「課題とその本質」を知ることが大切だと考えるからです。
実は私は、10年位前に、この大切な考え方を知る機会をお客様から与えていただきました。
ITベンダで働く者のサガ
私がITアドバイザを目指し始めた頃、やっと、ITのご提案に対して幾ばくかのお金を頂けるようになり始めた頃…ある製造業のお客様から、廣島さんはIT屋さんだから「HOW」の話ばかりですね…「HOW」なんてどうでもいいから、一緒に「WHY」を考えましょうよ…と言われたことがあります。
ようは端的に言うと、廣島さんは「ITシステムを”どう”作り導入するか」という手段、すなわち「HOW」のことばかり提案するが、それは違うでしょ…と言われたのです。
製造業の現場で働いた経験はゼロ、コンピュータープログラマとして生きてきた経験しか無かった私にとっては、「ITシステムの開発~導入のことを考えるな」と言われるのはとても辛いことです。また、私はそもそも自社のIT製品を売る立場の人間ですから、自社製品をどう活用し導入できるかを考えないわけにはいきません。
業務の相談を受けているのにITシステムのことばかり考えてしまう…これはITベンダで働く者の大多数の性だと思います。実際、私のように、アドバイザとは言え自社製品の販売ノルマを間接的に背負っているケースも多々あります。
いくら私が自社IT製品の機能やメリットを力説しようが、そのお客様からすれば「現場と経営陣に、廣島さんが提案したIT製品が具体的にどれだけの業務改善~投資対効果を生みだすのかを提示できないと、IT投資企画を上申できない」とおっしゃるのです。
たしかにおっしゃることは分かりますが、当時の私にはどうすればよいのかホトホト困っていたところ…そのお客様が私に教えて下さったことは、廣島の提案思考の順番…「1)HOW」→「2)WHAT」→「3)WHY」を真逆にしなさいということでした。
例えばお客様から「労務費を削減したいんです。」と相談をされた場合、当時の私の提案思考の順番は以下のとおりだったのです。
1)まずHOW(どうやるか)を考える
→手書きの伝票がけっこうあるんだよな、それ電子化しよう。どんな機能を持ったシステムが必要かな?
2)次にWHAT(何をするか)を考える
→それには自社製☆☆ソリューションを使えば安くできるし、ライセンス収入も見込めるぞ。
3)最後にWHY(なぜやるか)を考える
→そうすれば、お客様の伝票作成労力が減るし印字やFAXのコストも減るだろう。
…で、応接室のテーブルにカタログを広げ、「弊社の☆☆ソリューションはいかがですか?」と切り出すのです。
経営者の方には「簡単にAI製品に飛びつかないでください」と言いながら、お恥ずかしながら…当時の私は「簡単にIT製品に飛びついてもらおうとしていた」のです。現場の課題の本質も知ろうとせずにチャチャっと自社IT製品のカタログを広げるようでは、信頼感もなにもありません。
(そのくせ自分は、開口一番「AIシステムを導入したいから提案してくれ」といきなり切り出される経営層の方には不信感を抱くわけですから、身勝手なものです)
あれから約10年経ち、これまでに何十ものIT提案の機会を頂いてきました。そんな中で、実際にご発注を頂けた案件の多くは、たしかに『お客様と一緒にWHY(なぜやるか)を一生懸命に考えた案件』です。
『WHYから考える』…お客様と一緒にWHYをじっくりと考えることからスタートする大切さ、あの時のお客様のご指導が身と心に染みています。
WHY(なぜやるか)から考える
WHY…なぜやるか…を考えるスタートは、まず「現状」を徹底的に分析して明文化・定量化することです。
『労務費を減らしたいとのことですが、どの部署のどの業務の労務費を抑えたいですか?現状の部署別/業務別の労務費はいくらですか?』
『現状、人手で行っている作業にはどのようなものがあるか、リストを見せてください』
『リストの中のそれぞれの手作業は、どう大変なのでしょうか?それぞれ月間で何時間位かかっていますか?』
『あまり意味が無いと感じているが、ルールなので続けている手作業はどれですか?』
『よく似た作業を他の部署でもやっていませんか?実は、重複作業があるのでは?』
多くのお客様では、こういった問いかけに対する具体的な答えを提示できません。現状の徹底的な分析~明文化・定量化はとても大変な作業で、日常業務のスキマ時間で簡単にできるようなものではないからです。しかしながら、この作業をせず現状把握があいまいなままでは、体重計に乗りもせずに「痩せたいなあ」と言っているのと同じ状態です。
(徹底的な現状分析を実施するためには、多くの場合、経営層レベルの理解とバックアップの下での現場の調整が必要となります)
まずは「今の体重が何キロなのか」を明確にしないと「いつまでに何キロになりたいか」を決められません。これは、ITやコンサル業界で言うところのAS-IS(現状分析)~TO-BE(理想/目標設定)の流れの中のAS-IS部分が終わっておらず、TO-BEの設定ができない状態です。現状(AS-IS)が明確にならないと理想/目標(TO-BE)の妥当性を吟味できないのです。例えば…1年後の目標体重は今よりも5キロ減だと言われても、現状の体重が分からないとその目標体重が妥当かどうか判断できないですよね。
現状把握ができない経営(≒現状を伝達されない経営)が全く何も具体的な打ち手を講じられず早々に最新のIT技術に飛びつこうとするのは、ここに一つの理由があるのではと考えます…AS-ISを明確にできない経営は具体的実効的な革新をスタートできるわけがありませんよね。
さて、AS-ISとTO-BE(=WHY)を明文化できれば、それを元に、WHATとHOWは以下のようにおのずと決まってきます。
1)WHY(なぜやるか)
体重を量ったら93キロだった(AS-IS)
秋の検診までに標準体重になりたい(TO-BE)
2)WHAT(何をやるか)
標準体重は84キロだ、半年で84キロ(TO-BE)まで減量しよう。
半年で9キロ減だから、一カ月で1.5キロペースの減量を完遂する。
3)HOW(どうやるか)
けっこうキツいペースなので、摂食制限と運動の両方で減量完遂する。
a)夕食のカロリーを500Kcal以下に下げてもらうよう家内に協力を仰ぐ
b)朝か夜のどちらかは、一駅前で降りて歩く
c)一日の摂取カロリーと歩数を専用アプリで管理する
このように、WHYを明文化すればその実現のためのアクション(WHAT:何をやるか、HOW:どうやるか)のプランが挙がってくるものです。逆に言うと、WHYが変わればWHATもWHYも変わってきます。例えば「体重計が狂っていて、本当の体重は98キロだった」とAS-ISを変えたり、「秋の検診までに80キロ代になりたい」とTO-BEを変えたら、WHATの「一カ月の減量ペース」が変わり、HOWの「夕食500Kcal以下/一駅前で降りて歩く」も変更になります。
WHATとHOW…すなわち改善/変革の実現化プロセスは、WHYのAS-ISの正確さとTO-BEのコミットの強さに掛かってきます。先にHOWを決めてしまってからWHYの中身のAS-ISとTO-BEが揺らぐようでは、本末転倒なのです。
HOWを見ると、IT(=アプリ)の力を借りるのは最後のデータ管理作業だけです。このアプリは実際の減量の成功可否には大きな影響は無いでしょう。ITはただのデータ管理ツールでしかなく、減量の成功は当事者が起こす実際にアクションから生まれるのです。
言い換えれば、いくら正確で理想的でもアクションにつながらないWHYは「絵に描いた餅」でしかありません。
では、アクションにつながる「絵に描いた餅でなはいWHY」を明文化するにはどうしたらよいのでしょうか?また次の機会に考えてみたいと思います。
最後までお読み頂きありがとうございました。