今日からJリーグが開幕しますが、サッカーファンの方は今からワクワクしているのではないでしょうか。
応援しているチームがある方は、これから11月、12月まで毎週一喜一憂する生活が始まります。また、今年はワールドカップも開催されますので、サッカーファンにとっては楽しみな一年になると思います。
Jリーグの開幕を待ちきれず、先日発売された「フットボール批評」(issue 19)を読んでいたのですが、その中に名古屋グランパスエイトの風間八宏監督と小西工己社長の対談が載っていました。サッカーファンの方には風間監督のお話についてもおすすめしたいのですが、この対談の中で小西社長(元々はトヨタ自動車の役員の方です。)が仰っていた「処置」と「対策」の話は法務にもそのまま当てはまることだなと思いながら読みました。
何らかのトラブルが起こった場合、そのトラブルに対しては「処置」と「対策」の両方が必要です。
ここでいう「処置」とは、問題が起こった場合に結果の拡大を止める手だてを講じることです。トラブルが起こった場合には、トラブルが拡大しないようにまずは「処置」する必要があります。
これに対して「対策」とは、問題の根本原因を取り除いて問題の発生を防ぐ方法・手段のことです。トラブルが起こらないようにするために、トラブルが起こる前に「対策」を講じることは大切です。
トラブルが発生した場合、何よりもまず「処置」が必要です。作業員が怪我をして頭から血を流している人がいるにもかかわらず、止血をせずに「この人が怪我をした原因はなんだろうか。どうすれば同じようなことが起こらないだろうか。」などと悠長なことを言っている場合ではありません。まずは止血をすることが先決です。
しかし、トラブルが起こった場合に「処置」だけで終わらせてしまうと、同じことが起こってしまうかもしれません。これを防ぐためには「対策」が必要です。先の例で言えば、これからは作業の際には必ずヘルメットをかぶるようにする、というルールを作ることが「対策」に当たります。
弁護士という仕事をしていると、トラブルが起こってから相談が持ち込まれる場合が少なくありません。そのため、まず被害の拡大を防ぐための「処置」が最初に必要なアクションです。
例えば、しばしば見られる事例として、名ばかり管理職問題(管理監督者であれば残業代の支給は不要となる規定に基づき、管理職に残業代を支給しなかった場合に、その管理職から管理職とは「名ばかり」で管理監督者に当たらないので残業代を支払うように求められるもの)への「処置」と「対策」があります。
この管理監督者に該当する場合というのは厳しい要件があり、実際に当てはまる管理職は多くはないのですが、このことがあまり理解されていないこともあって「管理職には残業代は不要」という認識のまま、残業代を支払っていない場合がしばしばあります。
管理職から残業代請求を受けた場合には、まず「処置」としてその管理職が「管理監督者」に当たるという理由を検討し、さらに状況に応じて和解の道を探ることが考えられます。このようにして「処置」をすることは大前提ですが、この「処置」だけで終わってしまう企業が少なくありません。本来は、「処置」が終わった後あるいは同時並行で「対策」をすべきです。
管理職の中で「管理監督者」に該当する者を整理しなおしたり、「管理監督者」に当たる管理職に今まで以上の権限を委ねるために規程を変更したりするなどの「対策」を取ることによって、問題の再発を防ぐことができるようになります。
問題が解決すると「今回の件は勉強になりました」とおっしゃる方も多いのですが、勉強したことを実践しなければ意味はありません。だからこそ、トラブルが起こった場合には、「処置」だけでなく併せて「対策」を講じることが重要であり、この二つはいつもセットとして考えるべきなのです。
法務以外の分野では「処置」と「対策」の両方が必要という認識は一般的かもしれませんが、法務の分野でもこの二つをセットで行うことで法的トラブルの発生を防ぐことを目指していきたいと思います。
なお、「フットボール批評」(issue 19)はこの記事以外も面白いものが多かったので、興味のある方はぜひ読んでみてください。
(弁護士 大城章顕)