もっと会計を上手に使って欲しいと願い、会計は取り扱いが難しいと悩まれている方に少しでもヒントになればと思って書き始めたシリーズの2回目です。
1回目で営業利益を社内の指標にしない方がいいと偉そうに書きましたが、代替する指標は何かということが今回のテーマです。
前提をちゃんとお伝えしてませんでしたが、このシリーズで会計と言っているのは管理会計です。管理会計は、簡単にいえば社内向けの会計です。
株主さんや銀行などの外部向けの会計(いわゆる財務会計)ではありません。外部の方から見れば利益という指標は重要であり、それを否定する気はありません。ただ社内で使う会計において果たして利益というのが有用なのかという問題提起を1回目で行いました。
そもそも会計が何故必要なのかと考えると、つまるところ対話のためのツールと言えます。財務会計は、株主さんに対しては「1年間でこれだけ株主の皆様の取り分を稼ぐことができました」という事を伝え、銀行さんには「これだけ稼げているし、借金もそんなに多くないので返済は大丈夫です」という事を伝えています。
対話の道具だとすれば伝える相手により言い方や見せ方を変えるのは当然です。
例えば、どこの塾に行こうか悩んでいる家族を勧誘しようとするときに、子供に対しては「ウチには面白くて説明が上手な先生が沢山いるから講義は楽しく聞けるし勉強してても辛くないよ」と伝える一方、親には金銭面や合格実績などを伝えるという事を塾の案内をする人がしてても嘘を言ってない限り誰も文句は言わないと思います。
社内で対話する際に使う指標としては利益ではなく、「付加価値」をお勧めします。計算式は下記です。
付加価値=営業利益+人件費+減価償却費
(一般的な付加価値の定義とは若干違う部分もあるかと思いますが、対話をスムーズにするための指標としてここでは上記式で計算されたものを付加価値とします)
売上高から社外に出ていく費用を引いた残りと表現した方が分かりやすいでしょうか。
この付加価値は誰のものかと言うと、社員、会社、株主及び銀行など資金提供者のものです。
付加価値はみんなで分けあう原資とも言えます。付加価値の分配先は、①社員、②投資または内部留保、③株主、④銀行となります。
利益は②、③、④の原資です。社員が含まれているかどうかが違うだけですが、そこが対話に大きな差を生みます。社員に対して「利益を増やそう」と言っても自分たちの取り分ではないので他人事と思われるか、利益のために人件費もコストカットの対象となるんだろうなと悪い捉え方をされる恐れもあります。どちらにせよいい効果を生む対話にはなりません。
対して付加価値であれば、そういった利害の対立は置きません。社員も分配を受ける立場になります。社員と対話する際に利害対立を起こさないことが、付加価値を採用する一番のメリットです。
とはいえ、分配の方針を示さずに「付加価値を増やそう」と伝えてもあまり効果はありません。4つの分配先にどういった方針で分配するのか、それをセットで伝える必要があります。これにより対話の質が格段に上がります。これが付加価値で対話をする2つ目のメリットであり、実はこっちこそ大事なポイントです。
分配の方針に正解はなく、あるのは会社や経営者のポリシーや意思です。それを定量的な指標とセットで伝えられる道具が付加価値です。
事業が成長局面にあり今はとにかく規模拡大をするという方針であれば、分配方針として、投資、人に集中させるという事になります。人への分配額は増えるものの人数も増えるので、一人当たり平均分配額は上がらないという事もあり得ます。ただ事業がスケールして収益性が向上した後は一人当たりも増額するという説明も可能になります。
そうではなく事業の効率性を高めて収益力を上げる局面では、労働分配率(人件費÷付加価値)を最初から少し高い水準に固定するという方針もあり得ます。
それを伝えることで決算賞与の規模を明確にイメージ出来るようになります。努力して付加価値を増やす事が出来れば、その何割かが必ず自分たちに還ってくると感じられます。
透明性のある説明が可能になり、目指す数値への納得感が向上します。
付加価値なんて昔からある指標じゃん、と思われたかも知れません。確かに目新しいものではありませんが、しっかりと対話をすれば会計数値を自分事として受け止めて貰える効果があります。
人が収益の源泉であり人こそが会社の資産と本気で考えているなら、人件費をコストとして扱う利益で社内の対話を行うのか、みんなで稼いだ付加価値を分け合おうというスタンスで対話するか。どちらが伝えやすいでしょうか?
小さな矛盾を積み重ねるといずれ大きなコミュニケーションコストを払う事になります。
ちょこっとでもう~んと考えて頂けると幸いです。
確かにいいかもと思って頂いたとしても、外部向けには利益を出さないといけないし、損益計算書を変えるのは難しいと感じられる方も多いと思います。
次回は付加価値を出来るだけハードル低く導入する方法をお伝えします。
(夢想家 山口)
なお付加価値を重視した経営については当研究会の吉川さんがかなり前から推奨しており、特に製造業向けに付加価値会計を説明した本が出版されていますので、詳細はそちらをお願いします。
宣伝ですみません。
「製造業の原価管理を根本から変える! 付加価値会計の教科書」
日刊工業新聞社 発行、吉川 武文 著、 2014/11/21