工場長の吉川です。
日本の製造業に活気を取り戻すための付加価値会計を提唱、実践して日々格闘しておりますが、付加価値会計のメリットや実際に導入するにあたってご質問の多い点や悩まれる点に絞り解説します。
ポイント1:変動費と固定費の前提の確認
変動費と固定費の分離が重要なのは、両者の管理目標が全く異なるからです。変動費はなるべく使わないこと(コストダウン)が目標ですし、固定費はなるべく使うこと(生産性の向上)が目標です。両者を混ぜると適切な管理ができません。言い換えると、コストダウンの対象にしたいものが変動費であり/生産性向上の対象にしたいものは固定費なのです。固定費の回収は原価に算入することではなくCVP分析を基本とします。そこでCVP分析によって「何台売れたら損益分岐するのか」というシミュレーションを行います。台数や売価を調整しても黒字化の見込みが無いなら、生産性の低い経営資源(固定費)の生産性向上策(どうしてもだめなら処分)を検討しなければなりません。
ポイント2:稼働率はどんな状況でしょうか?
従来行われて来た固定費の配賦計算の是非は、工場の稼働率が高いか/低いかで大きく変わって来ます。稼働率が高くフル生産に近い状態であれば、従来の全部原価計算通りに固定費配賦を行っても良い目安になると思います。しかし稼働率がフル生産から遠い状態であれば、固定費の配賦額は異常になり製造業の「自滅のスパイラル」に陥るリスクが生じます。稼働率が低い場合は、従来の原価計算ではミスリードする可能性が高まります。
ポイント3:製品の競争力は如何でしょうか?
固定費配賦は「これだけお金をかけちゃったんだから」といってお客様に一方的に勘定書きを突きつける発想に繋ります。それでも製品に独自性が高く、競争力があるケースなら、お客様に製品を買っていただけるかもしれません。製品に独自性が低く、競争力が足りなければお客様は逃げてしまかもしれません。
ポイント4:配賦しない固定費はどのくらい存在しますか?
全部原価計算では非製造部門と判断された固定費は原価に配賦されません。昨今、多くの現場で製造部門の活動と技術部門の活動は混然一体になっていますが、従来の全部原価計算では作業者の労務費を製造原価に配賦するにもかかわらず技術部門の労務費は必ずしもきちんと配賦されてきませんでした。そのことがコスト管理の逃げ道になり「コストダウンしているはずなのに損益が改善しない」という状況を日本中で作り出しています。CVPにせよ固定費配賦にせよ、製造と非製造(技術など)を分けずに一体として管理することが重要です。
ポイント5:「目安」としての固定費配賦した単価計算
固定費は製造部門+販管部門を一体化した上で、CVP分析的に回収を計画すべきだと考えますが、固定費を模擬配賦して「目安」を計算した方が管理しやすいのであれば、それはそれで差し支えありませんし、「目安」を並記することもあります。ただし先ほどの話の通り、非製造部門のコスト漏れにはご注意ください。
ポイント6:内製か外注かの判断
外注を使った結果として固定労務費が遊ぶなら、
売上高-変動費(外注費を含む)=付加価値
付加価値÷固定労務費=生産性
(※簡易指標として、付加価値÷社員数=生産性)
という関係において生産性が下がってきます。外注を使ってもフル生産状態が続き社内の固定労務費が遊ばないなら、全体のスループットが増えるので生産性は上がって来る筈です。コスト的な視点からは、この生産性の指標で「内製すべき/外注すべき」の判断ができます。 (言い換えると、外注先の方が生産性が高い工程があるならお任せし、社内では自らの競争力の高い工程に集中することになります)
ポイント7:派遣さんは固定費か? 変動費か?
会社の経営に対する考えによります。例えば派遣さんがコストダウンの対象と考えるなら変動費ですし、生産性の向上を図り正社員の前段階として位置づけるなら固定費となります。一般的には変動費的な取り扱いが多く、その場合の付加価値生産性の計算式は以下のようになります。
売上高-変動費(ここに派遣さんの労務費を含む)=付加価値
付加価値÷固定労務費=労務費生産性(正社員の生産性)
(※簡易指標として、付加価値÷社員数=生産性)
かつて某工場で正社員の稼働が低く、派遣さんに過重なしわ寄せ労働させていたという事例がありました。そこで「派遣さんを丁寧に使いなさい(人を雑に使うと生産性が下がるよ)」というメッセージを込めてこの指標を使ったことがあります。
次回も付加価値会計に関してよくある質問にお答えしようと思います。
(吉川)